お盆特集
「人の死と供養」をあらためて考える
「死は終わりではない」

2026年08月号

真言宗の僧侶として幅広い人々の心に寄り添う足立住職(6月22日午後、高野山真言宗 惠弘寺で)

(あだち・りゅうげん)1963年福岡市出身。サラリーマンや自営業を経て得度し仏門の道へ。2014年に札幌市北区で高野山真言宗 惠弘寺を開山し、23年に現在地に移転。認定臨床宗教師、札幌市保護司、「国境なき僧侶団」メンバー、「札幌BONZEくらぶ」代表。62歳

会ったことがない先祖がいて自分がいる事実を思い出そう

今回のお盆特集は札幌市北区の高野山真言宗「惠弘寺」の足立隆厳住職(62)に、ズバリ人間の死と供養について話を訊いた。サラリーマンなどを経て48歳で仏門に入った足立住職は、宗教者が臨床の現場などに立ち会う認定臨床宗教師でもあり、末期がん患者や被災で心に傷を負った人たちに寄り添い、ケアを行なう社会派の住職としても知られている。「人間は死んだら終わりではない」と語る足立住職に、今日と明日を前向きに生きるために「人の死と故人への供養をどう考えればいいのか」を問うた──。
(6月22日取材 工藤年泰・武智敦子)


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死の床と心の傷に寄り添う


──足立住職は臨床宗教師でもありますが、どのような役割を。
 足立
 文字通り宗教者が臨床の現場に立ち会うことです。東日本大震災を機に東北大学や種智院大学といった各地の大学で養成講座が開設され、座学が終わると緩和ケア病棟で実際に研修を行ない、一般社団法人日本臨床宗教師会が資格認定を行なっています。
 私は20代の頃に末期がんの叔父が延命治療を受ける姿を見て思うところがありました。僧侶となってから同じ宗門の仲間から臨床宗教師のことを聞き、住職をしながら京都の種智院大学の講座で学び、その後に新潟県内の病院で研修を受け、資格を取って9年経ちました。いま道内には13人の臨床宗教師がおりますが、道外に比べ多いとは言えない状況です。
──これまで何人の臨床の現場に携わってきたのですか。
 足立
 数十人ほどになります。臨床宗教師は患者さんの依頼があればボランティアとして協力しますが、中には決まった日数を病院でのケアに当てる住職もいます。欧米では病院や警察署、刑務所などに聖職者のチャプレンがいるのが当たり前ですが、日本の医療の現場では「宗教者に何ができるのか」と色眼鏡で見る医師もおられるのが残念です。
──これまで何人の臨床の現場に携わってきたのですか。
 足立
 数十人ほどになります。臨床宗教師は患者さんの依頼があればボランティアとして協力しますが、中には決まった日数を病院でのケアに当てる住職もいます。欧米では病院や警察署、刑務所などに聖職者のチャプレンがいるのが当たり前ですが、日本の医療の現場では「宗教者に何ができるのか」と色眼鏡で見る医師もおられるのが残念です。
 私たちは災害で心に傷を負った人達のケアも行なっています。東日本大震災後に東北の公民館でカフェを開いた時には住民たちが地震や津波で受けた心の傷をどんどん吐き出しました。それを傾聴するのが臨床宗教師の大きな役割です。
 足腰の弱い祖母を連れて逃げようとした人が、父親から「手を放せ」と言われ、おばあちゃんが津波に飲み込まれるのを見てしまい、ずっと後悔していたという話があります。これは辛いですよね。臨床宗教師はその方の心の痛みに寄り添うしかありませんが、震災から16年を経て少しずつ笑顔が戻ってきたそうです。
──間もなく余命が尽きる人たちは、どんなことを聞いてきますか。
 足立
 一番多いのは死んだらどうなるかということですが、自分の死をしっかり受け入れた人たちは死への恐怖はだいぶ安らいでおられます。最初は元気になりたいなどと考えていますが、日が経つにつれほとんどの人が残していく妻や子供、孫の幸せのみを願うようになります。
──死後、自分はどうなるのかと聞かれた時の答えは。
 足立
 私はまだ死んでいないので(笑)、「どうなると思いますか」と逆に聞きます。その人に対して「こうなるのでは」などと言って予見や疑問を抱かせてしまった時点で臨床宗教師としては失格なのです。私たちの役割は、ご本人の不安や疑問をいかに取り除いていくか、そこにあると思っています。


──葬儀で故人に接すると、その人の存在が蒸発した抜け殻のような印象をいつも受けます。
 足立
 文字通り命もしくは魂の抜け殻と言えるでしょう。科学的にも指摘されていますが、心肺が停止し脳が反応しなくなっても、聴力はしばらくまだ残っているそうです。
 また脳には「奇跡の30秒」があり、ある大学の研究では、死後30秒の間に後頭部の脳内で自分の一生が走馬灯のようにスパークすると報告されています。臨死体験をした人は、川の向こうに先祖がいて手を振っていたと言います。日本人にしても欧米人にしても臨死体験から戻ってきた人は、同じ光景を見ている確率が高いとされています。
 つい最近、私は80代半ばの末期がん患者のケアで、ある体験をしました。その人には「浄土に旅立つ時は、そこの花瓶の花を揺らして私に教えてください」とお願いしていたのですが、臨終後1時間半ほど経った頃でしょうか。葬儀社が来て病室から出る時に、花瓶の花が揺れました。看護師さんも医師もそれを見て、「あ、やっぱり」と。不思議でも怖くもありませんでした。
──他にはどんな体験を。
 足立
 昨年は、福岡で同じ経営者が運営する2つの老人施設で職員が霊を見るというので祈祷に呼ばれました。ひとつ目の施設で祈祷すると、アザのあるおばあちゃんやホクロのある人など4人が浮かんできました。おひとりは名乗ったので、その人の名前と3人の特徴を職員に話すと誰であるかが分かりました。いずれも1年以内に亡くなっており、死後、直ぐに火葬場に送られ葬儀をしていなかったのです。その人たちの慰霊祭をすることになり祈祷をしました。もう1カ所の施設も同じでした。
 人を送る儀礼は亡くなった人の尊厳を守るためのものであり、日本人が本来持つ先祖への崇拝の気持ちです。それを大切にしてきたのに、死後すぐに火葬場へ送られるご時世となった。それを何とかしてほしいと現世に出てきたのです。
──最大の供養は故人を思い出すことだと聞いたことがあります。
 足立
 先祖への一番の供養は末裔たちが一生懸命に勉強し、働き、笑い、泣いて元気に過ごしている姿を見せることですが、忘れ去ることは殺すことと同じです。会ったこともない先祖があってこその自分であることを絶対に忘れてはなりません。そのためにも初七日、一周忌、三回忌、七回忌は豪華でなくてもちゃんとやるべきです。人間は死んだら終わりではありません。だからこそ、日本人には死者の尊厳を守るという遺伝子が組み込まれているのです。
 私は葬式をしない人たちを差別はしませんが、区別はします。亡くなった日を「没日」と言わず、「命日」と呼ぶのはなぜか。我々の先祖は私たちに命を伝え、死して初めてその人の命は光輝く星になる。だから亡くなった日は、命の日である「命日」なのです。
──苦労をした先祖がいても、供養することでそれを癒すことになる。
 足立
 もちろんそれもありますが、徳を積み供養を続けていけば必ず御先祖様は応援してくれます。10代前まで遡ると1024人もの先祖がいるのですから、中には罪を犯した方もおられるでしょう。そうした人を含めて遺伝子をもらった全員に手を合わせる。法事や葬儀は子供に「人は死ぬ」ということを教える教育の場でもあり、心を優しくすることにもつながるので、いじめに対しても効果があると思います。
──輪廻転生についてはどのような見解をお持ちですか。
 足立
 死後、肉体を無くした人間の魂は子供に戻るというのが私のイメージです。仏教では、輪廻転生を繰り返し涅槃に入ることを目標としますが、果たしてそれが可能かどうかは、お釈迦様にしか分かりません。だから、私たちは悟りを開く前の菩薩の心を持ちながら生きていけばいいのではないでしょうか。


──高野山で修行された際、教師役の高僧から法力があると言われたそうですが。
 足立
 修行中に「見えるのか」と言われました。葬式にしても仏壇の前でお参りしても、故人が見えますし、声が聞こえることもあります。だからこそ私は一生懸命に手を合わせ拝ませてもらいます。例えば、皆さんも「いま何かが通った」と感じる時は大体は当たっています。私はそれを映像として見ることができる、それだけの違いです。
 以前に沖縄でホテル建設に携わる業者から、整地をしたらケガ人が続出するようになったという理由で祈祷をお願いされたことがあります。現場の写真と地図を送ってもらうと、骨肉の争いがあった場所のようで、先祖が守ってきた土地を結果的に皆が手放していた。ひとりでは危険だと言われたので、私を含め法力のある3人の住職で現地に行きました。
 ホテルを建てる土地は3日間かけて祈祷をし、外側の土地については手を入れないようアドバイスしました。しかし、一昨年に外側の土地を整備しようとしたら人骨が出て工事がストップしてしまった。
──お盆を迎えるに当たり、読者にメッセージを。
 足立
 我々が今、この世に生まれることができたのは先祖があってのこと。先祖がひとりでも欠ければ自分の存在はありません。せめてお盆はご先祖様に有難う、帰ってきてくださいねという心を持ってください。日本人には、こうした先祖を大切にする心、多くの人と協調していく心根が遺伝子に組み込まれていると私は確信しています。
──本日は有難うございました。

真言宗の本尊である大日如来と足立住職

高野山真言宗 惠弘寺
札幌市北区新琴似1条11丁目10-20
☎︎011-214-9674

真言宗の本尊である大日如来と足立住職

高野山真言宗 惠弘寺
札幌市北区新琴似1条11丁目10-20
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