告発・絶望の学府㊲
「気づくとロープを…」

2025年05月号

男子学生が亡くなった当時、教員らは家庭環境を自殺の原因とする報告書をまとめていたという
(檜山管内江差町の北海道立江差高等看護学院)

看護学生自殺で元職員が重要証言
江差パワハラ、教員ら虚偽報告か


一連の疑惑の表面化から丸4年が過ぎた、北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題。第三者調査で事実認定された事案の多くが被害回復に到った一方、最も深刻な被害である在学生の自殺事案は未だ解決をみていない。遺族が道を訴えた裁判が非公開で進む中、ここで改めて事件当時をよく知る元職員の証言に耳を傾けてみたい。犠牲となった学生とのやり取りを振り返りつつ、その人は断言する。「亡くなった原因はパワハラ以外にあり得ない」――。

取材・文 小笠原 淳
1968年小樽市生まれ。地方紙記者を経て2005年からフリー。「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に『見えない不祥事』(リーダーズノート出版)。56歳

当時の報告「作文」だった


 檜山管内江差町に住むその男性(66)は、5年あまり前の出来事を昨日のことのように憶えている。
「あれは、我が眼を疑いました」
 忘れようにも忘れられないのは、当時勤務していた道立江差高等看護学院で眼にした光景だ。
「あの学生さんが亡くなって1週間ほど経ったころだと思います。朝に出勤すると、先生たちがまとめた報告書がたまたま私の視界に入る所に置いてあった。何気なく見てみたら、とんでもない出鱈目なことが書いてあるんです」
 本誌などがこれまで報じてきた通り、江差看護学院の男子学生(当時22)が在学中に自ら命を絶ったのは2019年9月中旬のこと。教員によるパワーハラスメントを苦にした自殺であることが強く疑われ、のちの道の第三者調査でも自殺とハラスメント被害との相当因果関係が認められる結果となった。先の男性も自殺の原因はパワハラ以外にないと確信していたが、職場で眼に止めた報告書はその疑いに一切触れていなかったという。
「先生たちの作文ですよ。自殺は家庭環境が原因だと。親御さんがシングルマザーで経済的に安定していない、その年の8月にはお爺さんが亡くなった――、そういうことを苦にした結果ということにされていた。学生さんたちには一切、なんにも聴き取りしないで、適当な作文をでっち上げて道庁に出したんですよ」
 当時の教員らが組織ぐるみで事実の隠蔽に走ったことを疑う男性は、先述の第三者委の調査に協力し、自ら見聞した事実の証言を買って出ることになる。だが学校設置者の道はその後、同委の調査結果をことごとく否定し始めるのだ。
 これもたびたび報じてきた通り、調査後に学生の遺族へ直接謝罪した筈の道はほどなく、ハラスメントと自殺との因果関係を否定する主張に舵を切る。調査結果と喰い違う対応に不信を募らせた遺族が損害賠償を求める裁判を起こしてからは、ハラスメントそのものの存在を認めない“手のひら返し”を決め込むことに。

学生が最期に使ったロープが元職員の眼にした物だったのかどうかは、今となってはわからない(江差町内)

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担当職員が遺族へ頭を下げた一昨年春の時点では、道は必ずしもハラスメントを否定していなかった筈だが……
(2023年5月15日午後、札幌市内)

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