告発・陸の蟹工船〈10〉
牧場 労災不正受給か

2025年06月号

知的障碍のある男性たちは水道や冷暖房のないプレハブ小屋での寝起きを強いられ、無報酬で苛酷な牧場労働を続けていた(恵庭市内)

当事者不在の休業補償申請
恵庭・障碍者虐待で新事実


本誌など地元報道が伝え続ける障碍者虐待問題で、新たな疑惑が持ち上がった。恵庭市の牧場で起きた事故で、怪我をした従業員に無断で労働災害が申請され、牧場主らが不正に休業補償などを受給していたという。札幌で続く裁判では牧場側が元従業員らを「労働者でない」と主張しているが、労災申請の書類では「労務者」扱いに。事実を掘り起こした訴訟代理人らは、憤りとともに訴える。「障碍者を不正の道具にする行為は、到底許されない」

取材・文 小笠原 淳
1968年小樽市生まれ。地方紙記者を経て2005年からフリー。「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に『見えない不祥事』(リーダーズノート出版)。56歳

怪我人を「道具のように」


「もう“時効”ではありますが、私文書偽造・同行使、詐欺などにあたる可能性が極めて高い行為です」
 中島哲弁護士(札幌弁護士会)は、情報公開請求で入手した資料を手に歎息する。
「当事者に無断で労災を不正受給しただけでなく、自ら労働者性を否定した筈の従業員を道具のように使って休業補償まで受け取っていた。到底許されることではありません」
 本誌などが一昨年の夏から伝え続けている、恵庭市郊外の牧場を舞台とした障碍者虐待疑い。劣悪な環境で長期間の“奴隷労働”を強いられたとして知的障碍のある男性3人が牧場関係者と自治体とを訴えた裁判で、原告側が新たな事実を掘り起こしたことがわかった。労働当局への開示請求であかるみに出たのは、牧場による労働災害給付金の不正受給疑い。中島弁護士らが入手した公文書には、ほとんど確信犯的な不正行為の実態が記録されていた。


 札幌の労働基準監督署などが開示した資料によると、その事故が起きたのは2006年5月のこと。のちに原告の1人となる男性が牧場作業中に牛に引っ張られ、左脚を複雑骨折した。男性は恵庭市内の病院を受診、半年間ほど治療を続けることになったとされる。事故は労働災害と認められ、治療費のほか139日間の休業補償45万円あまりが給付された。
 だが、怪我をした男性本人はその補償金を一円たりとも受け取っていない。それどころか、そもそも労災を申請した覚えがない。なぜか。牧場関係者が本人に断りなく申請の手続きを進め、給付金の全額を受け取っていたためだ。

作業の報酬は、裁判では「お菓子やジュース」とされていたが、労災申請の書類では「賃金」が発生したことになっている(地元労働基準監督署が一部開示した資料)

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