北海道整形外科記念病院の新理事長・近藤真医師に訊く
新薬開発に貢献しチーム医療で最善の医療を提供

スポーツ障害や外傷に苦しむ多くの少年少女をサポートしている近藤理事長
(こんどう・まこと)1962年渡島管内森町出身。89年北海道大学医学部卒業。製鉄記念室蘭総合病院(旧新日鐵室蘭総合病院)、NTT東日本札幌病院を経て2003年北海道整形外科記念病院に入職。15年同病院理事・副院長を経て20年4月院長就任。26年5月理事長就任(院長兼任)。新琴似リトルシニアリーグチームドクター、日本整形外科学会専門医、日本手外科学会認定医、日本肘関節学会評議員、北海道肩研究会監事、64歳
Medical Report
国内有数の整形外科専門病院として知られる医療法人 北海道整形外科記念病院(札幌市・160床)の新理事長に上肢治療のエキスパートである近藤真院長(64)が就任した。「患者さんに笑顔で病院を後にしてほしい」をモットーにする近藤理事長は北大で学んだ時代に準硬式野球のピッチャーとして活躍したスポーツマンでもあり、現在もリトルシニアリーグのチームドクターを務めているほど野球と縁が深い。5月から理事長兼院長として病院を率いる近藤医師に今後の抱負をはじめ、北大と取り組んだ新薬の治験と効果、専門分野である上肢の疾患、今回はとりわけスポーツ障害について訊いた。
(5月26日取材 工藤年泰・武智敦子)
病院連携をさらに強化
──加藤貞利前理事長が役員として定年を迎えたことを受け、このほど理事長に就任された。1978年創設の由緒ある整形外科専門病院のトップとなった感慨はいかがですか。
近藤 権力を得たのではなく、患者さんに対する責任をはじめ、職員と職員の家族を合わせた約千人の暮らしを守っていく責任をあらためて強く感じています。私は「患者さんには笑顔で病院を後にしてほしい」と常々思っているので、職員一丸となって患者さんが安心して治療を任せられる病院を目指していきたいと考えています。
──今後はどこに力を入れますか。
近藤 地域の病院とのつながりを一層強くしていきたい。当院は年間約3千件を超す手術実績がありますが、急性期中心の医療体制なので長期の入院は難しい。このため治療した患者さんはなるべく早く後方支援の病院に転院していただき、リハビリを継続してもらっています。患者さんには独居の人もいるので、自分のことができるようになるまでお世話をお願いしており、こうしたことを今後一層強化していきたい。
また早期から自宅で過ごしたい患者さんには訪問看護の体制も整えており、患者さんにとっての選択肢のひとつになっています。地域貢献ということでは、職員のお子さんに限っていた「記念保育園」を一般の方にも門戸を開けたらいいな、と考えています。
もうひとつは、院内の風通しをさらに良くすること。当院では1カ月に1回程度、医師たちから意見を聞く「朝会」を開いています。私の提案で始めて、まだ1年も経っていませんが、「こうしてほしい」といった要望などを出してもらったり、私から意見を求めることもあります。こういった意思疎通がチーム医療の強化に役立つと考えています。
──直近の話題では、サテライトの「JRタワークリニック」が今年1月16日に閉院しました。
近藤 北海道新幹線の札幌延伸に伴う再開発で「札幌エスタ」がなくなり、人の流れが変わったこともあって医療資源を本院に集約しました。クリニックの安保裕之院長は、こちらに戻って「一般整形外来」を担当しています。この外来を設けたことで従来は午前中だけだった外来診療が午後もできるようになりました。安保先生は脊椎が専門ですが、外来で診た患者さんを専門分野につなげる役目を果たし、クリニックに通っていた患者さんも来ています。前理事長の加藤先生も外来を受け持っており、頼もしい限りです。

「離断性骨軟骨炎」で軟骨が欠損している状態(左)とモチジェルの手術をして軟骨が再生している様子(どちらも矢印部分)

軟骨修復材の「モチジェル」(画像は持田製薬のHPより)

「五十肩」の8割とされる、滑液包に炎症を起こす「肩峰下滑液包炎」
「離断性骨軟骨炎」で軟骨が欠損している状態(左)とモチジェルの手術をして軟骨が再生している様子(どちらも矢印部分)
軟骨修復材の「モチジェル」(画像は持田製薬のHPより)
「五十肩」の8割とされる、滑液包に炎症を起こす「肩峰下滑液包炎」
治験で貢献した新薬開発
──専門分野の上肢治療では、スポーツ障害も手掛けておられる。
近藤 スポーツ障害のひとつに、野球などで肘の軟骨が剥離してしまう「離断性骨軟骨炎」があります。剥離する前は痛みで投球レベルが落ちたり、投球が困難になります。軟骨は剥離してしまうと関節内を動き回るので「関節ネズミ」と呼ばれます。この遊離体が関節の隙間に挟まってしまうと、肘が突然動かなくなる「ロッキング」が起こります。遊離体が関節から外れたら肘は動きますが、繰り返すようなら取り除くしかありません。治療法のひとつは、剥離して不安定な軟骨を切除した後、関節の表面が線維性軟骨で早く被覆されるように刺激するもの(マイクロフラクチャー法など)。もうひとつに、膝や肋骨から取った同じ種類の硝子様軟骨を移植する骨軟骨移植があります。ただ骨軟骨を移植する手術は、採取する膝や肋骨部位にメスを入れ、侵襲を与えるため肘以外に合併症を起こす可能性がつきまといます。
──離断性骨軟骨炎では、新薬の治験を北大と貴院で行なったとか。
近藤 新薬は北大と持田製薬が共同開発した軟骨修復材「モチジェル」で、北大と当院が行なった治験は、病巣をきれいにしてからモチジェルを注入して硝子様軟骨を再生させる取り組みでした。治験は10年前から始まり、国が効果を認めて昨年の秋に保険収載されています。
この「モチジェル」は海藻由来のアルギン酸ナトリウムが主成分。これに塩化ナトリウムの溶液を添加するとゲル状に固まり、関節軟骨と同じ種類の硝子様軟骨が再生する仕組みです。手術後、2週間ほどで肘を動かし始め、順調であれば術後3カ月から徐々に投球を始められます。従来のマイクロフラクチャー法などの軟骨再生法では、症状が軽快してもMRIで撮影すると表面がボソボソしているものですが、モチジェルで治療した患者さんは軟骨面がきれいに写りました。
──今後の普及が期待されます。
近藤 保険収載後に肘に関しては当院が北海道で初の手術を行ないました。膝にも同様の適応があり、膝の軟骨治療については本院が日本で初めての症例となりました。肘や膝のほか足首にも応用が効くので、全国に広がっていくと思います。
──スポーツ外傷に悩まされる少年少女も少なくない。
近藤 かなり前の話ですが、スノーボードのハーフパイプ五輪強化選手で肩から落下し、骨を折った中学生の女の子を治療したことがあります。手術で治ったのですが、次のシーズンに反対側をまた骨折してしまった。結果的に両肩を手術しましたが、その後のシーズンでは「ジャンプ力は飛び抜けていた」と評価されています。基本的に怪我は治るもの。諦めず前向きに治療に取り組もうと子どもたちに接しています。
──ポピュラーな障害や外傷は。
近藤 野球の障害で言いますと、投球という繰り返すストレスによって、肩では上腕骨(肩から肘までの骨)の付け根の成長帯の損傷である近位骨端離解や、肘では内側への伸張ストレスが内側上顆の剥離骨折を引き起こします。外傷では「投球骨折」といってボールを投げる動作の際に上腕骨が折れる人もいます。これは、腕をねじる力に骨が耐えきれず上腕骨の真ん中が螺旋型に折れてしまうもので、腕相撲でも同じ折れ方をする場合があります。
──よく「トミー・ジョン手術」という言葉を聞きます。
近藤 トミー・ジョン手術は、野球の投球動作などで損傷を起こした肘の内側の靭帯(内側側副副靭帯)の再建術で、損傷した靭帯部分に正常な状態の手首の腱を移植して再建する治療法です。あの大谷翔平選手も肘の障害に泣かされており、トミー・ジョン手術を受けたと言われています。米国のフランク・ジョーブ博士が考案した手術で、「トミー・ジョン」は最初に手術を受けた投手の名前であり、現在ではポピュラーな治療法になっています。
──治療後も以前のポテンシャルが保てますか。
近藤 希望を持っていいと思います。当院での手術前にセカンドをやっていた高校生は、肘が治って投球能が上がり、ショートに回ったそうです。この高校生が「先生、今度キャプテンになりました」と報告に来てくれる嬉しい出来事もありました。治療後に「甲子園に行きました」と甲子園のペナントをお土産に持ってきてくれた子もいます。
放置すると危険な「五十肩」
──シニア世代の話もお聞きします。「五十肩で腕が上がらない」といった症状は、どのようなことが起きているのですか。
近藤 「五十肩」は医学的には「肩関節周囲炎」と呼ばれ、40代から60代を中心に起こる肩関節の炎症や痛み、動かしにくさを伴う疾患の総称です。加齢に伴い肩関節を構成する関節包(関節を包む袋)や腱板(インナーマッスルの腱)の柔軟性が失われ、血流が悪化して炎症が起こることが主な原因とされ、進行すると関節が固まる「凍結肩」につながる場合もあります。
当院の患者さんに多いのは、「五十肩は放っておけば治ると」と周囲に言われ、酷くなってから受診するケースです。炎症が急激に起きて一時的に関節包が硬くなっても、自然にほどけて肩が動くようになるケースもあります。しかし、来院されるほとんどの患者さんは加齢などで腱板の表面や裏側が変性して脆くなっているので、炎症が起きてしまう。その結果癒着し、しだいに関節包が縮むため肩関節が動かなくなります。
──腱板断裂の場合もある。
近藤 腱板断裂かどうかは問診や診察後にMRIで確定診断を行ない、必要に応じて剥がれた腱板を縫合して治す「腱板修復術」という手術をします。この修復術では1センチ程度の穴を数カ所つくり、小型カメラの関節鏡と細い手術器具を関節内に挿入して行なう低侵襲な手術もあります。ただこの関節鏡手術は直視下手術に比べて時間がかかり、全身麻酔時間が長くなりがちで高齢者には負担が大きくなります。麻酔のリスクがある高齢者などは、皮膚を5~8センチにわたり切開するオープン法も選択肢となります。
目次へ
© 2018 Re Studio All rights reserved.