自治体と報道――問われるガバナンス
記者は2人いた

2025年09月号

町には職員の処分を公表するルールがなく、7月の停職処分は公式サイトや広報誌などにも未掲載
(檜山管内乙部町の同町庁舎)

乙部町職員が盗撮で懲戒処分
発生半年、対応遅れた事情は


7月中旬に地元紙が伝えた、ある盗撮事件。追って共同通信やNHKも 報じたその出来事は、自治体職員が女性新聞社員の下着を撮影して処分 されたという側面のみが伝わるところだが、関係者らが把握する事実は それだけに留まらない。事案の発生から当事者の処分までに半年以上の 時間が費やされた背景には、何があったのか。被害者の勤務先・北海道 新聞が自社の紙面に書き残さなかった情報を、ここに記録しておく。

取材・文 小笠原 淳
1968年小樽市生まれ。地方紙記者を経て2005年からフリー。「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に『見えない不祥事』(リーダーズノート出版)。56歳

1月の事件、処分は7月


 初報を担った記事は、7月19日付の北海道新聞 第二社会面に掲載された。
《檜山管内乙部町は、同町の男性職員を停職2カ月の懲戒処分とした。処分は15日付。/関係者によると、男性職員は1月、道内の飲食店で開かれた懇親会で、同会に参加した北海道新聞社の女性社員を、自身のスマートフォンを使って無断で2回撮影した》
 同旨の情報は、共同通信も同日中に配信。1週間ほどが過ぎた7月25日にはNHKニュースが後を追った。2者の報道をまとめると、道新記事にある「無断で撮影」なる行為は下着姿の盗撮で、乙部町はその行為が性的姿態撮影処罰法違反にあたる可能性があると判断したという。
 本稿記者が道新経営企画局に事実確認を求めたところ、同法務・広報グループは「19日付の記事の通り」とのみ対応、それ以上の確認取材には応じられないとした。社としてのコメントは、同記事に盛り込まれた左掲の一文がすべてという。
《当社社員が町の職員から不適切な行為を受けたのは大変遺憾です》
 報じられた事実を再確認しておくと、盗撮疑い事件があったのは本年「1月」のこと。当事者の職員の懲戒処分は7月「15日付」で、道新の第一報は同「19日」に発信された。
 事件から処分までに6カ月以上が費やされ、同処分が明るみに出るまでさらに4日を要することになったのは、なぜなのか。

酩酊者の「介抱」に乗じ?


 舞台は道南・檜山管内乙部町。日本海に面し山に囲まれた小さな町の中心部、町民会館などが建つ地域に、盗撮の現場となった「道内の飲食店」は店を構える。1月6日の深夜から翌7日未明にかけ、事件は起きた。
 先の報道で「女性社員」と記されていた被害者は、若手といえる世代の取材記者であることがわかっている。年が明けてまもないその日、同記者は町内のスナックで開かれる飲み会への誘いを受けた。町総務課は取材に対し、北海道新聞の記事にある「懇親会」という言い回しは正確ではないとしているが、周辺取材の限りではその集まりは町職員30人あまりが参加する新年会の二次会のような位置づけだった。実際、女性記者がそこに顔を出したのは深夜と言ってよい時間帯だったという。

のちに事件捜査の対象となる出来事を被害者が把握したのは、発生から3カ月が過ぎるころだった(乙部町内)※ 画像は白黒反転処理しています

のちに事件捜査の対象となる出来事を被害者が把握したのは、発生から3カ月が過ぎるころだった(乙部町内)※ 画像は白黒反転処理しています

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